四六判上製 246ページ
著 者 遠浜 々(とおはま・のま)
発行元 東洋出版
定 価 1200円
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盲人用の音訳図書は、静岡県立点字図書館と、京都ライトハウス情報ステーション(京都市北区)に音訳図書があり、全国の点字図書館から借りることができます。
現在、日本では毎日200点以上の本が出版されていると言われています。その一方で出版不況と言われ、本を読む人は年々減ってきています。
書店の一番目立つところに置いてある本を見ると、「ガンに効く○○」や、「神霊」、「あなたの運命を変える法」など、おもしろみも深みもないいい加減な書物が多く、買ってみたい作品は少なくなっているように思います。小説の分野でも、安直に読める、いわゆるエンターテインメント、それも読んだらすぐにゴミ箱行きの文庫本が多いような気がします。
この作品は序曲(前書き)と7つの称からなっています。本書のあらすじを書いておきます。
<序曲>
この小説は、冒頭が「クライマックス」の一部分から成り立っています。9年にも及んだ佐藤栄作政権が終わるほぼ半年ほど前、強度の視力障害を持つ22歳の主人公泰行は、健常者たちと「歌のサークルのリーダー」を養成する学校の卒業生として、日比谷公会堂で、「歌唱指導」の実演をします。
<第1幕 キムチとコーヒーの巻
ここからクライマックスに至る過程が描かれます。
ちょうど2年ほど前、主人公の泰行は、盲学校で鍼灸治療の臨床実習の患者さんから、入場無料の音楽会の入場券をもらいました。
同級生で最も親しい、全盲で韓国出身の新井を誘い、音楽会に出かけます。彼の叔父が上野で経営している朝鮮料理店で、とびきり辛いキムチやピビンパを食べた後の音楽会は、すばらしい物でした。しかしその帰り、会場内で落ち合った患者の若者が、転んでけがをしたり、酔っぱらいに絡まれたりと、いろいろな災難に遭います。
ここには、東洋医学における陰陽五行説と易の関係など、鍼灸についての興味深い会話が語られています。
第2幕 あこがれの音楽学校の巻
泰行は無事に盲学校を卒業し、鍼灸マッサージ師の免許を取ったものの、盲人だからやむを得ず入った世界である上に、患者さんも組合の仲間もみんな高齢者ばかりで、悶々とした日々を送ります。
卒業後一年経った頃、久しぶりに盲学校の同級生だった新井たちと音楽会を訪れます。
この音楽会を主催している団体は、アマチュアの歌声サークルや合唱団などのリーダーを養成する学校も運営しており、逢ってくれた講師に、視覚障害者でも一緒に勉強できるか訊いてみます。
学校では、講師が協議したところ、やれるところまでやってみればどうかという結論になり、泰行のところには親切な案内状が届きます。
第3幕 発声練習の巻
七夕祭りが開催されている暑い夏の日、泰行は平塚市の自宅から、希望に胸をふくらませて、音楽学校に通い始めます。
開講の挨拶もそこそこに始まった授業は、中学時代によくやらされた発声練習。そもそも学校の授業でそれほどおもしろいものはありませんが、その中でも特に退屈で、「赤尾の豆単」でも出して、英単語のいくつかを覚えた方がまだおもしろいと思ったのが発声練習でした。
しかしみんなが退屈そうにし出した頃、先生は期を見計らっていたように、発声の練習がいかに大事か、そして今まで全く習わなかった声の共鳴と言うことについて説明してくれます。ベルカント商法とは何かと言うことと、演歌や民謡との発声法の違い、明るい声で歌い、また人にすかれるような声で話すにはどうしたらいいかという授業が始まります。
大4幕 昼下がりの銀座でワインパーティーの巻
泰行はこの学校に入学する前、盲学校の仲間から、健常者ばかりの学校に入り、邪険にされたり仲間はずれになるなど、不愉快な思いをするだけで、何の得るところもなくやめなければならなくなるのではないかと忠告されていました。
しかし、入学を認めてくれた講師たちだけでなく、生徒たち、特に一般には気位が高いと思われている中年の仲間からも慕われ、順調にほぼ半分の授業を全うします。
秋分の日、先生から「住所書きを手伝ってほしい」という申し出に、思い切って泰行も参加します。ざっくばらんな女性の講師と、年齢も性別、仕事もまちまちの生徒6人。一緒に食事をしたり、無駄話をしながら住所書きをして、今までは全く興味がなかったファッションやワインなどの文化に興味を持つようになります。
第5幕 羊が一匹、羊が二匹の巻
暑くも寒くもない秋分の日、音楽学校で知り合った若い仲間が、泰行の自宅に泊まりに来ます。
学校が終わって9時過ぎに東京駅で湘南電車に乗り、平塚の自宅に向かいます。盲学校の寄宿舎以来、友達と枕を並べるのは一年半ぶりです。
翌日は二人だけで、近くの渓谷へハイキング。「海なし県」から東京に出てきた若いサラリーマンの生活を知り、共感をもちます。
第6幕 目指せ、初舞台の巻
この音楽学校は、卒業時に何人かが、日比谷公会堂の舞台に立って、「歌唱指導」の実演をします。
発声法・呼吸法から、指揮法・音楽理論・話し方と授業が進み、ある日先生が「誰かみんなの前に出て、歌唱指導をやってみないか」と生徒たちを促しました。
何となく興が乗って立ってしまった泰行でしたが、膝はがくがくし、思ったように声が出ません。先生からも厳しい批評を受けましたが、かえって仲間からは、自分の欠点をみんなの前でさらけ出してしまった勇気のある若者と言うことで、ますます親密につきあってくれるようになります。
そしてついに、卒業式の日に公会堂で一人で歌唱指導をする「きっぷ」を手にします。
第7幕 ベルカント星にとどくの巻
卒業演奏の日がやってきました。
今までクラスの発表会くらいの数人の前で話をしたことはありましたが、こんな大きな会場はもちろん未経験です。
天の助けか、舞台で待機しているときにとなり煮座っていたのは、泰行に最もよくしてくれた税務署員の生徒、会話はできないものの、座っているうちに心が落ち着いてきます。
おわり